離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
4 愛のない結婚生活のはじまり
◆愛のない結婚生活のはじまり





 その日、私は高級ホテルへやってきた。



 父とともに車から降り、ドアマンが開いてくれた豪華な扉からロビーへと入る。
 
 ここは二週間前、忍さんと待ち合わせをしたあのホテルだった。
 
 この場所ではじめて忍さんに会った。
 
 そのことを思い出し、胸がきゅっと苦しくなった。
 
 今日は政略結婚のお相手とはじめての顔合わせをするためにここへ来た。
 
 忍さんとの思い出のこのホテルで、政略結婚のお相手と会うなんて皮肉だなと小さく笑う。
 


 向かった先はホテルの中にある老舗料亭。
 
 案内をしてくれる仲居さんから、お相手はすでに到着していると聞かされ緊張感が高まる。
 
「どうした、琴子」
 
 私の足が止まると、父に声をかけられた。
 
 平静を装い、「なんでもないです」と首を横に振る。
 
「久しぶりのお着物だから、ちょっと息苦しい感じがして」
 
 自分で着付けをしたけれど、気持ちを引き締めようと少し伊達締めをきつくしすぎたかもしれない。
 
 帯の辺りに手を添えながら、はぁっと息を吐き出す。
 
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