離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 少し薄めの唇と、無駄をそぎ落としたように引き締まった精悍な輪郭。
 
 近寄りがたく感じるほど整った顔の男性がこちらを見ていた。
 
 その人と目が合った瞬間、私は叫び声をあげそうになった。
 
「な……っ」
 
 心臓が大きく跳ね、頬が熱くなる。
 
 夢を見ているのかと思った。
 
 だって和室で私を待っていたのは、あの夜私を抱いた忍さんだったから。
 
 どうして忍さんがここに……っ!?とパニックになる。
 
「どうした、琴子」
 
 父に低い声で問われ、我に返る。
 
 なんとか必死に平静を装ったけれど、頭の中は大混乱だ。
 
 忍さんのご家族も、不思議そうに私を見つめていた。
 
「し、失礼しました」
 
 慌てて謝りながら呼吸を整える。
 
 驚きすぎたせいか、軽いめまいを感じた。
 
「お客様、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」
 
 心配そうに私の背中を支えてくれた仲居さんに、なんとか「大丈夫です」とうなずく。
 
 帯をきつく締めすぎたせいもあって、貧血をおこしかけたみたいだ。
 
 胸に手を当てゆっくりと深呼吸をする。
 
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