離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「それにしても、二十四歳で政略結婚なんて。おばさんが生きてたらなんて言っただろうね」

 ひとみの言葉に苦笑いする。

 母が病気で亡くなったのは私が中学生のときだった。
 
 ちょうど選挙期間中で、父は母の病室にやって来ることはなかった。

 病室のテレビで選挙の様子を伝えるニュースを見ながら、『お見舞いにも来ないで選挙を優先するなんて、信じられない』と私が顔をしかめると、病床の母は『これでいいのよ』と誇らしげに微笑んでいた。

『あの人は強い覚悟と重い責任をもって選挙に臨んでいるの。私の病気なんかが理由で落選したら、死んでも死にきれないわ』

 政治家の妻として父を支え続けてきた母らしい言葉だった。

『お父さんはお母さんをちっとも大切にしてくれないのに、どうしてそんなに尽くせるの?』

 ちっとも理解できずにたずねると、母はくすくすと笑っていた。

『あの人は不器用なのよ。琴子も大人になったらきっとわかるわ』
『えぇー。私には絶対わからないよ』
『あ、見て。あの人がテレビに出てるわ。やっぱり今回の選挙のために仕立てたスーツがすごく似合ってる。凛々しくて素敵だと思わない?』

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