離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 ひとみの言葉に不安が一気に湧きあがる。
 
「浮気なんていやだ……っ」
 
 忍さんが私以外の女性を抱くところを想像して、泣きそうな声が出てしまった。
 
 すると、ひとみが慌ててフォローしてくれる。
 
『不安になるようなことを言ってごめん! 今のはただの私の想像だから、気にしないで』
「……うん」
 
 うなずいたものの、一度芽生えた不安は簡単には消えそうにない。
 
『とりあえず、忍さんとちゃんと話したほうがいいかもね』
「そうだよね。きちんと話し合っていい夫婦になれるように頑張る」
 
 来週から新居で忍さんと一緒に暮らす。
 
 いくらでも時間はあるんだから、お互いのことをわかり合って素敵な夫婦になる努力をしなきゃ。
 
 そして、幸せな家庭を築くんだ。
 
 そのときの私はこれからはじまる新婚生活に希望を抱き意気込んでいた。
 
 ……けれど、そんな思いは同居初日で見事に砕け散ることになった。
 





 

 
 翌週、私はひとりタクシーに乗って新居のあるマンションへ向かった。
 

 今日から忍さんと一緒に暮らす。
 
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