離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 挙式はまだ先だけれど、籍はすぐに入れる予定だ。
 
 もうすぐ一ノ瀬琴子ではなく、上條琴子になるんだ。
 
 そう思うだけで、期待と不安で胸がいっぱいになる。
 
 新居の部屋の家具や家電はすべて上條家が用意してくれたそうだ。
 
 私の荷物もすでに運び終え、ほぼ身ひとつでやってきた。
 
 ドキドキしながら後部座席に座り、膝の上に大切に置いた上品な紙袋を見下ろす。
 
 その中には四角い箱。
 
 中身は色とりどりのフルーツで飾られた美しいケーキが入っていた。
 
 デートで行ったあのお店で買ったものだ。
 
 このケーキを食べながら、マッチングアプリで出会ったのは私ですと正直に話そう。
 
 そして、これから夫婦として仲良く暮らせるといいな……。
 
 そんなことを思っていると、新居となるマンションが見えてきた。
 
 

 都心の一等地にできたばかりの高級マンション。
 
 敷地には小川が流れ、遊歩道沿いに並んだ広葉樹が緑の葉を茂らせていた。
 
 その道を進めば、できたばかりの病院や商業施設もある。
 
 とても住みやすそうで素敵な場所だった。
 
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