離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 そう言いながらマンションの中へと案内してくれる。
 
 忍さんはもう自宅にいるらしい。
 
 コンシェルジュのいるロビーを抜け、専用エレベーターに乗る。
 
 セキュリティも豪華さも最上級のマンションにため息がもれた。
 
「琴子さんがおいでになりました」
 
 玄関を開け岩木さんが声をかけると、リビングから忍さんが出てきた。
 
 その姿を見て胸がときめく。
 
 今日の忍さんはスーツではなくカジュアルな服装だった。
 
 白いカットソーに黒のカーディガン。
 そして細身のパンツ。
 どれもシンプルだけど質が良く、彼のスタイルの良さを引き立たせていた。
  
 黒髪はラフに下ろされていて、スーツのときとはまた雰囲気が違った。
 
 忍さん、私服もかっこいい……。と心の中でつぶやく。
 
 プライベートをのぞき見てしまったような特別感にドキドキしていると、忍さんがわずかに首をかしげた。
 
「どうした?」
 
 彼の声にはっと我に返る

 いつまでも玄関で立ち尽くす私を、不思議に思ったらしい。
 
 見とれていた自分が恥ずかしくなって、慌てて首を横に振る。
 
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