離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 
 これから夫婦として、ふたりで幸せになりましょうね。
 
 そう続けようとした私の前で、忍さんが静かな口調で言った。
 
「そうやって緊張しなくていい。俺は必要なとき以外この家には帰らないから、君はここで自由に過ごしてくれ」
「え……?」
 
 忍さんはここで暮らさないの? せっかくこんな素敵な新居を用意してくれたのに?
 
 驚きで目を見開く私とは対照的に、彼は淡々と続ける。
 
「もちろんここに友人を呼んでもいいし、周囲にバレないように気をつけてくれるなら恋人を作ってもかまわない」
「恋人って。私たちは夫婦なのに……?」
 
 意味がわからず混乱する。
 
 忍さんはいったいなにを言っているんだろう。
 
「籍は入れるが俺は君を束縛するつもりはない。どうせ愛情のない政略結婚だ。お互いの両親が満足するまでの数年間、必要なときに形だけの妻を演じてくれればそれでいい」
 
 彼の表情は冷たかった。
 
 ふたりでデートをしたときとは別人のようだった。
 
「形だけの妻……」
 
 呆然としながら忍さんの言葉を繰り返す。
 
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