離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「あぁ。上條家がほしいのは一ノ瀬議員の人脈と影響力だ。逆にそちらがほしいのは不動産業界や建築業界との太いパイプだろう? 結婚生活は二年も続ければ十分だ」
「じゃあ、二年後私たちは離婚するってことですか?」
「あぁ。君だって親の決めた政略結婚を一生続けるなんて苦痛だろう」
 
 胸に強い痛みを感じた。
 
 その言葉はそのまま忍さんの気持ちなんだろう。
 
 会社のために政略結婚をするのは仕方ない。
 
 けれど、愛してもいない相手と暮らすのは苦痛でしかない。
 
 そう思っているんだ。
 
「安心してくれ。俺は君に指一本触れないし、極力顔も見せないようにする」
 
 それは裏返せば、彼は私に触れたくないし顔も見たくないということだろう。
 
 幸せな結婚生活を夢みていた私は、一気にどん底に突き落とされたような気分になった。
 
「あの、私はここでなにをすればいいんですか?」
「言っただろ。なにもせず、自由に過ごしてくれればいい」
 
 必要なのは一ノ瀬家の名前だけで、私自身にはなんの価値もないと言われた気がした。
 
 うつむいて、きつく唇を噛む。
 
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