離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 不満顔の私をよそに、母はテレビに映る父を見てうれしそうにしていた。

 たしかに父は整った顔つきをしていて、街頭でマイクを握る姿は精悍だった。

 母が亡くなった日も父は選挙活動を続けた。

『悲しみを押し殺し街頭でマイクを持つ姿は政治家の鑑だ』と持ち上げられ、二位以下を大きく引き離す得票数を得て当選した。

 私は父が選挙事務所で支持者たちから祝福される様子をテレビで見ながら、ひとりで泣いていた。

 父と母は政略結婚だった。それでも母は父を愛し、政治家の妻として必死に支えてきたのに、父は母を看取りもしなかった。

 まるで母の人生を否定されたようで悔しかった。

 父にとっては、母よりも選挙のほうが大切だったんだ。

 政略結婚で決められた妻を愛していなかったんだろう。
 母を愛していなかったということは、娘である私のことも愛していないんだ。

 母の死がきっかけで生まれたそんな疑念を消すことができなくて、私は未だに父とうまく話せずにいる。

 今回の政略結婚も、私の幸せは二の次で自分の政治活動を優位に進めるために決めたんだろう。

< 8 / 179 >

この作品をシェア

pagetop