離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 政略結婚の顔合わせは翌週に控えていた。
 
 顔合わせの場所で再会したら、きっとよろこんでくれるはずだ。
 
 そう思い、すぐにでも一緒に暮らせるようにマンションを用意し、彼女の好みの家具もそろえた。
 
 でも、それはすべて俺のひとりよがりだった。
 
 彼女も自分に好意を抱いてくれているとうぬぼれていたのだ。
 
 顔合わせ当日、約束の料亭で彼女を待つ。
 
 そしてあらわれた琴子の姿を見て俺は息をのんだ。
 
 長い黒髪がばっさりと切られていたからだ。
 
 初対面のときの露出の多い服装と派手なメイクではなく、振袖姿の彼女はとても清楚で美しかった。
 
 白い肌に鮮やかな朱色の着物は似合っていたし、肩の上で切りそろえられた黒髪もかわいらしい。
 
 けれど、琴子の顔には戸惑いが浮かんでいた。
 
 政略結婚の相手が俺だとわかった途端、血の気が引くように青ざめていく。
 
 明らかに動揺し、今にも倒れてしまいそうだった。
 
 崩れ落ちそうになった背中を仲居の女性が支え、心配そうに声をかける。
 
< 86 / 179 >

この作品をシェア

pagetop