離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 彼女の心情を考えるといたたまれなくなる。
 
 きっと俺の顔なんて見たくもないに違いない。
 
 だから極力彼女には近づかず、一刻も早く離婚して自由にしてあげたい。
 
 そう思い、あの提案をした。
 
「ですが、今のはすべて副社長の想像ですよね? 勝手に決めつけず、ちゃんと琴子さんの気持ちを聞いたほうがいいのでは」
「聞いたところで本心を言うわけがないだろう。きっと俺に気を使っていい妻になろうと頑張るはずだ。心の中では俺の顔なんて見たくもないと思いながら」
 
 俺の言葉に岩木は眉を寄せる。
 
「そこまで言うのなら、政略結婚を断ればいいのでは?」
「そうしたら、琴子がほかの男と結婚させられるだろ」
 
 琴子の父である一ノ瀬重信は、どんな難しい場面でも確実に結果を出してきた強い求心力を持つ政治家だ。
 
 その反面、目的のためなら手段を選ばない男でもある。
 
 もし俺との結婚の話が流れれば、ほかに利益になる家柄の男を探すだろう。
 
 琴子が好きな相手と結ばれるのならまだしも、ほかの男と政略結婚させられるなんて、想像するだけで苛立ちが湧いてくる。
 
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