離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
 父にとって私はかわいい娘ではなく、ただの道具なのかもしれない。そう思うと、胸の奥がずきんと痛む。

「琴子は今までずっと親の言うことを聞いて規則正しく生活してきて、恋人ができたこともないのに政略結婚するなんて、もったいないよ」
「もったいないかぁ……」

 高校・大学とバイトもサークル活動もせず、父の事務所の裏方としてお手伝いを続けてきた。

 そんな生活をしている私に同年代の異性と知り合う機会があるはずもなく、二十四歳になっても恋愛経験は一切ない。

「恋の楽しさも知らないのに、いきなり十歳も年上のおっさんと政略結婚なんてもったいないよ! 人生ドブに捨てたようなもんじゃん」
「ドブって」

 憤るひとみに思わず笑ってしまった。

「別に政略結婚だからって、不幸になるって決まったわけじゃないよ。相手がすごく素敵な人かもしれないし」
「もし最悪な男だったら?」
「そうしたら、頑張って結婚生活以外の楽しみを見つけようかなぁ」
「琴子はほんとおっとりしてるのにやけに打たれ強いっていうか、変にポジティブというか!」

 ひとみの文句を聞きながら、鏡を見た。

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