離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「とりあえず、慣れない新居にひとりじゃ不自由もあるでしょうから、私がまめに琴子さんの様子を見に行くようにしますね」
「あぁ頼む」
 
 そう言いながら足を止め、出てきたばかりのマンションを見上げる。
 
 できるなら、あの部屋で一緒に暮らし、本当の夫婦になりたかった。
 
 けれど、そう願っていたのは俺だけだった。
 
 彼女はきっと、俺の顔なんて見たくもないだろう。
 
 せめて、あの最上階の部屋で琴子が幸せに暮らしてくれればいい。
 
 そう思いながら俺はマンションをあとにした。

 




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