離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「わざわざ探してくれたんですか?」
 
 私は驚きながら受け取る。先週岩木さんがここに来てくれたとき、雑談の中でわかりやすい中国語の本を探しているとちらっと話しただけなのに、こうやって持って来てくれるなんて。
 
「ありがとうございます」
「いえいえ。必要なものがあれば、いつでもおっしゃってください」
 
 私が受け取り頭を下げると、岩木さんが穏やかに首を横に振る。
 
「あ、岩木さん。もしお時間があるなら、お茶を飲んでいかれませんか?」
「お茶ですか?」
「実家からお菓子が届いたんですが、ひとりじゃ食べきれなくて困っていたんです」
「実家というと、お父様から?」
「いえ、家政婦さんたちです」
 
 母が亡くなってから、私のそばにいてくれたのは優しい家政婦さんたちだった。
 
 いつもはげましてくれたし、家事や料理の仕方も教えてくれた。
 
 結婚して家を出ると知ったときは目を真っ赤にして見送ってくれた。
 
 みんなちょっとお節介ですごくいい人たちだ。
 
「いろいろ送ってくれるんです。ひとりじゃとても食べきれないくらい」
 
 私が眉を下げると、岩木さんが苦笑した。
 
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