離縁するはずが、冷徹御曹司は娶り落とした政略妻を甘く愛でる
「琴子さんは、家政婦さんたちにも愛されていたんですね」
「いえ、父はほとんど留守にしているので、私がいなくなって退屈なんだと思います」
「そういうことでしたら、お言葉に甘えて」
 
 靴を脱いだ岩木さんにスリッパを出し、キッチンでお茶の用意をする。
 
「琴子さん。この部屋で暮らしてなにかご不便はありませんか?」
「いえ。すごく快適です。ただ、話し相手がいなくて少しさみしいですけど」
 
 私の正直な答えに、岩木さんの表情が曇った。
 
「そうですよね。こんなところに閉じ込められていたらさみしいですよね」
「えっと、私は閉じ込められてるなんて思っていませんから、大丈夫ですよ?」
 
 ちょっと愚痴ったつもりが予想外に深刻なリアクションをされ、慌てて首を横に振る。
 
「琴子さん。ここで暮らすのが苦痛でしたら、実家に帰られてもいいんですよ」
「いえ、そんなわけにはいかないです。わざわざ忍さんがこんな素敵なお部屋を用意してくれたのに」
「あんな臆病でこじらせた副社長に気を使う必要なんてないのに……」
 
 岩木さんはぶつぶつと小声で文句をもらす。
 
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