不倫彼氏とデートした夜、交通事故に遭ったら、出逢う前に戻っていました。
『うちに来てた時はね、家庭教師派遣業者から、生徒の気が散らないように、ブサメンにしていけって言われてたんだって』

紗智はそう言って、キャッキャッと笑った。

一昨年の夏、日付をまたいで帰宅した紗智が『プロポーズされちゃった』と言い、左手の薬指のダイヤモンドリングを『世界最速で、お姉ちゃんに一番に披露っ』と言って見せてくれた。

あんなになんでも話してくれたのに、紗智は人生の一大事の妊娠を、これまでのようにすぐに伝えてはくれなかった。

まるで──この一年程の不倫を、さあ、終わらせろとばかりに、私の最愛の人マッキーに告げさせた。

もちろん紗智は私達の関係を知らない。
けれど突然の爆弾に心をズタズタにされた私は、あのおっとりとした風な童顔とそれに不釣り合いな豊かな胸が憎らしくてたまらない。

シャープな顔立ちとスレンダーな躰の私とは正反対の紗智を、今ほど嫌いだと思ったことはない。

私はわざと冷めた声を出した。

「紗智と寝るのは仕方ないとして──」

新婚半年で夫が何もしなくなったら、妻は疑いを抱くだろう。
それは男性経験が無いに等しい紗智であっても同様で、そういうのは好きじゃないというのがマッキーの意見だった。

『この恋は別世界で行われるから美しい。紗智に知られたら穢れるんだよ』

私はマッキーの不倫の美学を受け入れるふりをした。

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