婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
それがようやく叶うのだと思うと、心臓がバクバクと音を立てる。
武者震いしそうなほど興奮した振り袖の中の身体は火照っているのに、緊張しているせいか指先が冷たい。
浮いた金粉がキラキラ光る緑茶で喉を潤し、背筋をピンと伸ばした私は、ここ数年来の目的を果たすため、すうっと大きく息を吸った。
「そうだね、せっかくなら取引先も呼んで盛大に」
「あの!」
両親たちの会話を遮るように大きな声を出した私に、麻生の両親は驚いてこちらに視線を向けた。
父は顔を顰め、母は小声で私の名前を呼んで嗜める。
それに怯むことなく、私は努めて無表情で両親を一瞥し、長年ずっと両親に言い続けてきたことを改めて宣言した。
「私は、結婚する気はありません」
私の突然の発言に、その場がシンと静まり返る。
しかしそれも一瞬で、母の奥に座る父が腰を浮かせ、こめかみに青筋を立てて私に怒りをぶつけてきた。