婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

何度思い返しても、学生時代の自分の愚行は取り返しはつかない。

煽ったマッカランが喉を焼いた。

シングルモルトのロールスロイスと異名を持つウイスキーは、香り高くスモーキーな風味とバニラのような甘みが感じられる。

俺が知る限り、マッカランの30年を置いているのはこのバーだけで、これを飲みたいがためにここに通っている。

「マスター、同じやつ」

店に入ってくるなり隣に座った男が、俺の飲んでいるグラスを指さした。

「あーあ、辛気臭い顔して。余計に幸せが逃げてくよ?」

笑いながらからかってくるのは、水瀬爽。大手ハウスメーカー『水瀬ハウス工業』の御曹司だ。

彼とは二年ほど前、仕事で世話になった有名大学の教授の還暦を祝う会で知り合った。

同い年で将来企業を背負う身、さらに、いきつけのバーがここ『Karin』という共通点から、こうして少なくない頻度で飲む仲だ。

「急に婚約者と住むからいい物件紹介してくれって言い出したと思ったら、同居を嫌がって逃げられてるって。めちゃめちゃ笑わせてもらったけど、その後も進展ないの?」

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