婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「あの、こんなこと、昔怜士と付き合ってた先輩に話すのも失礼な気がするんですけど……」
本人がそう言っていたとはいえ、先輩からすれば元彼の聞きたくなかった本音に違いない。
どうしよう。促されて話してしまったけど、いくら今は結婚して幸せとはいえ、あまりに無神経だったかも。
俯いて申し訳ないと頭を下げた私に、彩佳先輩はだし巻き卵を丁寧な箸使いで上品に口に運びながら、ころころと少女のような顔で笑う。
「心配しないで。大丈夫よ、わかってたから」
「わかってた……?」
「ええ。当時からわかっていたわ。麻生くんがずっと霧崎さんだけを好きだってこと」
「え……、えぇっ?」
思ってもみなかった返しに、口がぽかんと開いたまま先輩の話を聞き続けた。
「たぶん、麻生くんに付き合ってもらってた女の子はみんなわかってたと思う。だからこそ、なんとかして振り向いてもらおうって頑張るんだけど、結局何をしてもダメなの。いくらデートしたって目も合せてくれないのに、校内では彼の視線はいつもあなたを追っていたもの」
「そんな……」
「当時は私なりに彼を好きだったから結構頑張ってみたんだけど、キスどころか手も繋いでないわ」
「えっ!」