婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
それは……ずっと清い交際だったってこと?
「これも、他の女の子たちみんな同じだと思うわ。でもそのせいで、霧崎さんは彼女たちからキツく当たられていたでしょう? それに気付いてないのかわざと放置してるのか、どっちにしろ何も対応しなかったのを見て、あっさり気持ちが冷めちゃった」
にわかには信じられない情報をもたらされ、どう反応したらいいのかわからない。
「この前言ってた“意趣返し”っていうのは、私にまったく靡いてくれなかったくせに、この歳にもなってまだモタモタしてる麻生くんに改めてガッカリしちゃったから。あなたに男性を紹介して発破をかけてみようかなって。ようやく告白したってことは、私の作戦は成功ってことね」
イタズラが成功した子供のような顔で笑う先輩の頬は、アルコールで赤く染まっても美しかった。
別れ際に「来月から息子をよろしくお願いします。霧崎先生」と母の顔で微笑んだ彩佳先輩を乗せたタクシーを見送り、怜士のマンションに向かう。
スマホで時間を確認すると午後九時を回ったところ。地下鉄の駅の階段を上りきって地上に出た途端、むわっとした空気が纏わりつき、夜でも蒸し暑い季節になってきたと顔を顰めた。
酔いが回るほど飲んだわけではないので、今日交わした会話はすべて鮮明に覚えている。