婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「陽菜! お前は…っ、ここまで来て今更一体何を言っているんだ!」
父が激怒するのは想定内。
母もただ私と父に挟まれオロオロしているだけで味方になってくれる気配はない。
しかしそんな母に落胆する時期はもう過ぎた。
今まで一度だって、父に逆らって私の味方になってくれたことはない。
「今更なのはそっちでしょう? 私はもう何年も前から嫌だと言っていたし、断ってほしいと何度もお願いしてきたはずです」
「ふざけるな! そんな我儘が通ると思っているのか!」
「……わがまま?」
父の言葉にカチンとくる。
『霧崎商事』の社長を務める父は、昔からこうして高圧的に話をする人だった。
霧崎家は江戸までは公家、明治以降は華族と名乗ることを許された由緒ある家柄で、小さい頃から躾けに厳しく、両親にさえ敬語を使うように言われていた。
父は仕事第一で家に寄り付かず、たまに顔を見れば「飯」「風呂」と単語でしか言葉を発しない。
そのくせ機嫌が悪かったり自分の思い通りに母や私や通いの家政婦さんが動かなければ、文句ばかり。
そんな父とお見合いで結婚した霧崎家同様旧家出身の母は、従順に従いつつもやはり居心地がいいとは言えないらしく、私が高校を卒業すると同時に古い友人と旅行三昧でこちらも家を空けがち。