婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
私は彩佳先輩から聞いた話を脳内で反芻していた。
『当時からわかっていたわ。麻生くんがずっと霧崎さんだけを好きだってこと』
怜士から衝撃の告白をされてから一週間。
仕事ではミスのないよう集中しているけれど、それ以外の時間はずっと怜士のことを考えていた。
高校入学以来突然冷たくなり、隣を歩く女の子がコロコロ変わっていた理由が、とんでもない誤解をされていたからだというのは驚きだった。
就職するのを“遊び”だなんて、父が保育士を見下した紛らわしい言い方をしたのもどうかと思うけど、それを勝手に“男遊び”に変換して勘違いをしていたとは。
当時はお互い同じ気持ちだったのだから、そんなすれ違いさえなければ、今頃結婚式に向けて幸せの絶頂にいたかもしれないのだと思うと、なんだかやりきれない。
高校生だった私は、初恋相手に裏切られたショックでひどく傷付き、怜士を嫌いになることで心の均衡を保ってきた。
それなのに……。
『俺は、子供の頃からずっと陽菜が好きだった』
そう言った怜士は、吸い込まれてしまいそうなほど綺麗な瞳で、真っすぐにこちらを見つめていた。