婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「陽菜!」
振り向くと、慌てた様子でこちらに走ってくる怜士の姿が見える。
そのことにひどく安心して、全身から力が抜けてしまうような感覚に陥った。
「彼女になにか御用ですか?」
息を切らしながら私の隣に立ち、掴まれた私の肩から手を引き剥がしてくれる。
野田さんは驚いて動きを一瞬止めたものの、すぐに顔を顰めて怜士に視線を移した。
「あなたは?」
「彼女の婚約者です」
ジロジロと値踏みするように怜士を見やると、フンッと鼻で笑う。
その顔はあからさまに敵意に満ちていた。
「陽菜先生、男を顔や若さだけで選ぶと失敗しますよ。保育士は薄給だし、子供が好きならいずれ出産して家庭に入りたいのでしょう? それなら経済力のある男を見極めないと」
野田さんは胸元のポケットから名刺を取り出すと、怜士に差し出した。
「麻生出版、販売促進事業部課長、野田誠司……」
受け取った名刺を読み上げる怜士は不愉快そう。
あれ、今『麻生出版』って言った……?