婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「四月から課長に昇進したんですよ。それに、今度立ち上がる麻生グループ本社の肝入りのプロジェクトからも声が掛かっていて、このままいけば昇進ルートに乗るのは間違いない。こちらは陽菜先生を迎え入れる準備は整っているんです」
なおも野田さんは詰め寄る。
「陽菜先生だって僕を好ましく思ってるからこそ、まりあを気にかけてくれてるんですよね? 立場上、保護者とどうにかなるわけにいかないと思っているのはわかります。だからって、まりあが卒園するまでこうやって遊び回るのを黙認するわけには」
「あの! ちょっと待って下さい!」
ずっと冗談なのか本気なのかわからずに彼の発言を放置してきたせいで、こんな事態を招いてしまった。
だけど、まりあちゃんを気にかけていたのは、ママがいなくなったり引っ越したりと急な環境の変化に彼女が戸惑っているだろうと、フォローしてあげたいという保育士としての使命感からだ。
決して野田さんに個人的な思いを持っているわけでもないし、思わせぶりな発言をしたこともない。
それなのに私の気持ちを決めつけて、住んでいるところを調べたり待ち伏せされていることが怖くて仕方ない。
これって、ストーカー行為なんじゃ……?
その言葉が頭をよぎるものの、自分の働く保育園の保護者を通報なんてしたくない。
それに、そんなことしたらまりあちゃんは……。
暴走している野田さんにストップをかけたものの、それに続く言葉が出てこない。