婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
そのまま逃げ出しそうな勢いの彼に、私は言いたかった言葉を投げかけた。
「野田さん。まりあちゃんとの時間を大切にしてください。男性がひとりで女の子を育てるご苦労はお察しします。でももう少しだけ、彼女を見てあげてください」
まりあちゃんはおとなしいけれど、とても頭のいい子だ。
以前保育園で母の日のプレゼントにお母さんの似顔絵を書く時も、野田さんの妹で、まりあちゃんの叔母さんの絵を描きながら、『パパの前ではママの話はしないの』と悲しそうな顔で話していた。
五歳の子は、大人が考える以上にたくさんのことを感じている。
どうか、大切な娘であるまりあちゃんに寄り添ってあげてほしい。
新たに彼女の母親になる人を探すよりも、父親として目いっぱいの愛情を伝えてあげてほしい。
担任の保育士としてそう願って声を掛けると、野田さんはバツが悪そうな顔をしながら小さく会釈すると、そそくさとその場から去っていった。