婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
ドキドキと心臓が痛いほど鼓動を早め、自分の手をどこにもっていけばいいのかわからず、身体の横にぶら下がったままの指先が震えた。
「陽菜が男に腕を掴まれてるのが見えて、すげぇ焦った。無事でよかった」
こんなふうに安堵のセリフを聞かされながら抱きしめられると、張り詰めていた心が少しずつほぐれていくのがわかる。
以前までの私なら、きっと咄嗟に突き飛ばしていたに違いない。
だけど、そうしたいと思わなかった。
「助けてくれて、ありがとう」
もう一度お礼を伝えると、背中に回された腕に力が込められる。
押し付けられた胸元から、以前感じたことのあるスパイシーな香水の香りと、わずかにお酒の匂いがした。
「飲んできたの?」
「あぁ、少しだけな。あ、一緒に飲んだのは男だから」
慌てたように付け足した怜士がおかしくて、ついクスクスと笑いが漏れた。
「別に疑ってないよ。お酒の匂いがしたから聞いただけ」
そう告げると、怜士はなぜか少し驚いた顔をしたが、すぐに切り替えて聞き返してきた。