婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「そっちは?」
「私も少しだけ飲んできた。……彩佳先輩、覚えてる?」
少しだけ躊躇いつつ、先輩の名前を出した。
「彩佳先輩?」
「高校の時のひとつ上の、神宮寺彩佳先輩」
「あぁ、神宮寺ホールディングスの」
元カノなのに、まず実家の会社が出てくるのかと、なんだか微妙な気持ちになった。
「そう、その彩佳先輩と飲んでたの」
「は?」
さすがに動揺したのか、怜士は私の顔をじっと見て真意を探ろうとしている。
もしかしたら気が気じゃないのかもしれない。
元カノである彩佳先輩と、結婚前提で一緒に住んでいる私が会っていたなんて、一体どんな繋がりで何の話をしていたのかって。
「すごい偶然なんだけど、うちの保育園に息子さんが途中入園するの」
「息子……。へぇ、結婚したんだな」
「元カノの結婚は寂しい?」
私には“元彼”という存在がいないから、その心情はわからない。
ただ純粋に疑問だったから聞いてみたんだけど、怜士はグッと喉を鳴らして咳き込んだ。