婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす～甘くほどける政略結婚～

『だけど、違うなって思ったの。この人とは恋愛出来ないなって。きっと私の心の中に、すでに今の主人がいたからなんだと思う』

彩佳先輩の声が頭の中で響く。

私が大内さんだけでなく、誰かと恋愛をするビジョンが持てないのは、心の中に別の人がいるから？

目の前で不安そうに私を見つめている怜士が、私の心を占領しているのは間違いない。

だけどそれは、先輩が旦那さんに対して抱いていた感情とは別物だ。私のはもっとネガティブでドロドロしていて、見るに堪えない代物。

キラキラしている恋愛感情なんかじゃない。

だって、ずっと嫌いだって必死に思い込もうとしていたんだから。

「ううん、ご縁がなかったですねっていうお祈りメッセージだよ」
「就活かよ」

即座に突っ込んできた怜士に笑って、もう大内さんとは会わない旨を伝えると、彼はあからさまにホッとした顔で微笑み返してきた。

そんなに嬉しそうな顔をされると、胸の奥がむずむずして落ち着かない。

私の戸惑いをよそに、怜士がおもむろにキッチンへ向かった。