婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「腹減ってない? 酒は飲んだけど、あんま飯食ってなくて」
「うーん、小腹空いたくらいかな」
「あれ作るか。『悪魔のおにぎり』」
怜士が提案したのは、中学の頃よくふたりで食べていたおにぎり。
ほかほかのご飯に、めんつゆ、揚げ玉、青のり、白ごま、鰹節を混ぜ、隠し味に高級出汁パックの中身を和えるという、食べだしたら止まらない通称『悪魔のおにぎり』。
某コンビニで売られていたものを怜士が自分流にアレンジしたもので、はじめて食べたのは、私が風邪で学校を休んだ際、お見舞いに彼が持ってきてくれた時。
ひとりベッドで食べた家政婦さんの作った彩り鮮やかな食事よりも、怜士の作ってくれた歪な形のおにぎりが美味しかった。
私がその時に絶賛したせいで、それ以来、怜士は事あるごとに悪魔のおにぎりを作ってくれたっけ。
私が懐かしい思い出に耽っている間に、怜士は冷凍ごはんを取り出して手際よく調理を進めている。
「懐かしい。これ一時期食べすぎて凄い太ったんだよね」
「陽菜めちゃくちゃ怒ってたもんな。試合前なのに動けなかったら俺のせいだって」
「中学はバレーに捧げてたからね。ふふっ。今考えたら、私凄い横暴だね。食べすぎたのは自分なのに」
「別に太ってないし、なんならもっと肉つければいいって言ったら、しばらく口利いてくれなかったし」
「それは怜士のデリカシーがないと思う」
当時の話をしながら笑っていると、あっという間におにぎりが出来上がった。