婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
ソファにふたり並んで座り、相変わらず少し歪な形のおにぎりを頬張る。
「ん、おいしい」
「でも、あの頃使ってた出汁がないからちょっと違うな。今度母さんに聞いて取り寄せるか」
「怜士のお母さん、お料理上手だったもんね。羨ましいくらい」
家事はすべて家政婦さん任せの我が家とは違い、怜士のお母さんは家のことはすべて自分でこなしていた。
特に料理の腕は素晴らしく、家に遊びにいった時には手作りのお菓子を振る舞ってもらったこともある。
当時の私たちは、実家の部屋を行き来するくらい仲が良かったのだ。
「陽菜が嫌じゃなければ、母さんに教わればいい。娘が出来たら、一緒に料理したいってよく言ってたから」
「え?」
「俺と結婚したら、陽菜もうちの母さんの娘だろ」
「そ、そう……だね」
急に結婚話を持ち出され、今まで和やかだった空気が一気に緊張したものに変わってしまう気がして、私はわざと話題を変えた。
「ねぇ、さっき野田さんと言ってた、幼児教育のプロジェクトって」
聞いていいのかわからないけど、実はずっと気になっていた。
幼児教育といえば、怜士が子供の頃からずっと考えていた事業分野だ。