婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
扉を閉めて、そのままズルズルと床にしゃがみ込む。
「あぁ、どうしよう。そんな気なかったのに……」
野田さんに待ち伏せされて恐怖に感じていたことを助けられ、守ってくれた頼もしさに胸が疼いた。
そっと抱きしめられたときのスパイシーな香りにドキドキしたし、大内さんに対して嫉妬心を見せてくれたのも、もう会わないと告げたときの安堵した表情も、本当に私を想ってくれているのだと感じられた。
なにより、昔から夢だと語っていた幼児教育に対する熱意が今なお衰えず、有言実行で自身が責任者としてプロジェクトを立ち上げるところまで実現しているのだと知り、これまで感じていなかった尊敬の念も芽生えた。
『入社後は本当に仕事一筋だし、女とふたりで出掛けたこともない。今さら虫が良すぎるかもしれないけど、信じてほしい』
きっと、本当に必死に頑張ってきたんだろう。いくら本社の御曹司とはいえ、採算の見込めないプロジェクトは通らないはずだ。
彼は私が考え及ばないほどの努力を重ねて、やっと夢を実現させる一歩手前まで辿り着いた。
それがわかってしまえば、もう怜士に対する気持ちが育ってしまうのを止められそうにない。