婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
しかし両親にとって、そんなことどうだっていいに違いない。
私個人の幸せなんて霧崎の家名や会社の前ではどうだってよくて、一人娘である私を麻生家に差し出そうとしているのだ。
『霧崎家の娘は旧華族の名に相応しく、大企業の御曹司に嫁いだ』という実態が欲しいがために。
そんなどうでもいい見栄のために、一人娘の私を売り払うかのように結婚を決めようとしている。
なるべく感情的にならないようにと思っていたけど、やっぱり無理。
ずっと蓄積されてきた鬱憤が胸の中でぐるぐると渦巻き、今にも決壊してしまいそうなほど湧き上がってくる。
「自分で自由に結婚相手を選びたいというのが、そんなに我儘なの?!」
自分でも思っていた以上に大きく、苛立ちを隠せていない声が出た。
両親に対して敬語を使わないのも、物心がついて以来初めてかもしれない。
「お前は霧崎家の娘だろう。家のために結婚をするのが当然だ! なんのために保育士なんて遊びみたいな仕事に就くのを許したと思ってるんだ!」
時代錯誤も甚だしい発言だが、父は至極真っ当なことを言っていると信じて疑っていない。