婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「恋人ごっこ?」
陽菜が担任をもつ園児の保護者から付き纏われていたのを助けて以来、彼女が俺を極端に避けることはなくなった。
今までは食事さえ俺のいない時間にキッチンを使って、作ったものを部屋で食べるという徹底ぶりで、ほとんどの時間を自室で過ごしていたらしい。
陽菜の出勤時間が早いので朝は顔を合わせる時間が短いけれど、夜にリビングで他愛のない話をする機会が増えた。
特に幼児教育の話を向ければ、昔と変わらないキラキラとした表情で話し出す陽菜が愛しくてたまらない。
目が合えば睨まれ、同じ空間にいるのも苦痛だとわかりやすく嫌悪感をあらわにされていたひと月前から考えれば、それだけでとてつもない進歩だ。
だけど、そんな学生時代の距離感に戻りつつあるだけで満足している場合ではない。
俺が求めているのは幼なじみや友達ではなく、陽菜と夫婦になること。
そのためには、彼女に俺と恋愛をしてもらわなくてはならない。
首をかしげて“恋人ごっこ”の説明を求める陽菜に大きく頷いてみせた。
「陽菜は結婚する前に恋愛がしたいって言ってただろ? だから、俺にもチャンスが欲しい」
「チャンス?」
「今はまだ気持ちがなくてもいい。だけど、俺を恋愛対象として見られるかどうか試してみてほしい」
今はなりふり構っている場合ではない。