婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「それは、……怜士も?」
「当たり前だろ。そもそもそんな相手はいないし、プライベートのスマホに女の連絡先なんてひとりも入ってない」
「えぇっ?!」
陽菜はオーバー気味なリアクションであっさりと腕の中から抜け出ていってしまい、その驚き様に顔を顰めた。
仕事とプライベートでスマホを分けていて、職場の人間や取引先関係で連絡を取り合う相手には仕事用の番号を教えている。
プライベートな番号を知っているのは、家族や気の置けない友人のみで、女は陽菜ひとりだ。
「そんな驚くこと? むしろ陽菜はそんなに男の連絡先入ってんの?」
「だって、私は仕事用に使い分けてないから」
「消せとは言わないし、同僚と飲みに行くのをやめろとも言わない。でもふたりきりはやめてほしい。デートは絶対ダメだからな」
以前陽菜の職場に迎えに行った時に会った山崎という男の顔が浮かんだ。
保育士という職業柄のせいか外見や口調は優しげだったが、飄々としてどこか掴みどころのない印象で、わざと睨みながら牽制した俺を軽くいなすような大人の余裕があった。
女性が多い職場だろうとたかを括っていたが、あんなに仲のいい男の同僚がいるなんて予想外だ。
絶対に奪われたくない。