婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「余裕なんかない。陽菜に好きになってほしくて必死なだけだ」
「だから、そういうのが……」
「もう黙って。逃げなかったのは陽菜だから」
そう言いながらも逃さないように腰を抱いたまま、そっと陽菜の頬を包み、出来るだけゆっくり優しく唇を重ねた。
指で触れたよりも柔らかく感じるキスは甘く、すぐに貪るように深く口付けたい欲求を抑え込む。
重ねては離れ、角度を変えて何度も触れる。
怖がらせないよう彼女の反応を確認しながら、唇を食むように愛撫し、極上の甘さを堪能した。
くすぐったいのか、たまに小さく漏れる吐息の色っぽさにぞくりと欲望が疼き、狭い口内に舌を捩じ込みたくなる。
そんな願望を押し殺して、わざと少し外して口角にちゅっと音を立ててキスを落とすと、驚いた陽菜が目を開けた。
鼻先が触れるほどの至近距離で視線があったのが余程恥ずかしかったらしい。
彼女は息を呑んでぎゅっと目をつぶると、キスから逃れるようにして俺の胸に顔を埋めた。
「陽菜」
「やだ、見ないで! 絶対変な顔してる……!」
「そういうの、可愛くて逆効果だって覚えておいた方がいい」
隠されれば見たいのが男の本能というものだ。