婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
もちろん私に任せっきりにすることはなく、早く帰れる日には怜士が手料理を振る舞ってくれることもあった。
今や朝晩のふたりで取る食事の時間は、私にとってもかけがえのないものになっている。
だけど、出勤時にいってらっしゃいのハグとキスをされるのには、いまだに慣れないでいた。
ちゅっと音を立てて唇が離れると、毎回目が泳ぐ私の髪を撫でながら怜士が笑う。
「早く俺に慣れてほしいけど、このまま初々しい陽菜のままでいてほしい気もするな」
「……不慣れですみませんね」
「それが可愛いって言ってんの。それに不慣れも何も、キスした回数は同じだろ。ファーストキス同士なんだから」
どれだけ可愛くない言葉を投げかけたって、怜士は笑って受け止めてくれる。
気の強い性格を知った上でこうして『可愛い』と言葉にされると、恋愛経験値の乏しい私にはもう太刀打ちしようがなく、ただ赤くなった顔を見られまいと俯くしか出来ない。
“恋人ごっこ”なんて言っているけど、私の気持ちはもう誤魔化しようがないほど怜士に傾いている。
これだけ毎日私に対する想いを向けられて、献身的に尽くされて、好きにならないわけがない。