婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「結婚の話を聞いたときは嬉しかったし、保育士になる目標も定まった。だけど、怜士が他の女の子と一緒にいるのを見て、急に冷たい態度をとられて、本当に悲しかった」
「陽菜」
「怜士を嫌いって思い込むことで自分の心を守ってきたし、絶対結婚なんてしないって意地になって勉強して資格取ったりしてきたけど、それで今の自分があると思うから後悔はしてないの」
ゆっくりと話す私の言葉を待っている怜士の瞳は、どこか不安げに揺れている。
「怜士が本当に私を想ってくれてるんだっていうのは、一緒に暮らしだしてちゃんと伝わってきた。でもね、だからこそもやもやしちゃう自分がいるの。ずっと私を好きだったのに、他の女の子と……って」
「陽菜、それは」
焦ったように口を開く怜士の言葉を遮って、私は言いたかったことを宣言した。
「だから『子供の頃から好きだった』っていうの、聞かなかったことにする」
「……え?」
「過去に嫉妬して、不安になりたくない。お互いに今が初恋ってことにしたいの」
今日一日一緒にいて改めて思った。この男はめちゃくちゃモテる。
ただ歩いているだけなのに周囲の女性の目を惹き、何度『彼女連れか…』という視線に晒されたか。
学生の頃にはもっと辛辣な視線や言葉を浴びていたせいで、ある程度耐性はついているけれど、怜士の人を惹きつける力を久しぶりに実感すると、多少の不安は芽生えてくる。