婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
少しも待てないといった様子の怜士は、ヴィラに入るなり唇を重ねてきた。
教会から乗ってきたタクシーの中でもずっと手を握られ、意味ありげに手首や手の甲を指先で撫でられ、経験のない私でも心と身体が彼を欲しているのだと自覚できてしまう。
はじめから容赦なく舌が割り込んできて、口内の弱い部分を探り、膝が震えて立っていられなくなりそう。
キスがこんなにも気持ちがいいものだなんて、想像もしていなかった。
「は……、怜、んんっ」
「陽菜」
艶のある低い声で名前を呼ばれるたび、腰にぞくりと不思議な感覚が走る。
「ね、待って。あの、シャワー……」
シャワーを浴びたいだなんて、いかにもこれから抱かれようとする女のセリフだと恥ずかしく感じるけど、いくら軽井沢とはいえ今は八月。
ずっと外にいて汗もかいたし、このままは絶対に嫌だ。
そう思って怜士の胸を押し返すと、彼は眉間に皺を寄せ不満そうな顔を見せる。
「俺は陽菜なら気にならない」
「私が気になるの!」
それに、いくら再会初日に押し倒されているとはいえ、私にとっては今日が正真正銘のハジメテ。
綺麗にしてから抱かれたいと思うのは、女性にとって普通のこと。