婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
経験豊富な怜士がわからないはずないのに、と睨むと、彼は降参したように両手を上げた。
「わかった。待ってるから、早く」
「もう、急かさないでよ」
「ようやく鍵が開いたんだ、理性も切れる寸前なんだよ」
怜士のよくわからない呟きを背に、私は逃げるようにバスルームを探す。
白い壁に大理石の大きなテーブル、白いソファと、降り注いだ光が反射して眩しいほどに明るいリビングは四十畳はあるだろうか。
大きな開放的な窓の向こうには石造りのテラスがあり、籐で作られた椅子が置いてある。
右手のドアを開けると、すぐに洗面所が見つかった。
バスルームはガラス張りで、八ヶ岳や南アルプスの山々が一望出来る。絶景を堪能しながらリラクゼーションも受けられるよう、バスタブの隣にはエステ用のベッドも完備されていた。
贅を尽くした内装に感嘆のため息を漏らしながらも、私はそれどころではない。
シャワーを浴びながら、今からいよいよ怜士に抱かれるのだと思うと、心臓が痛いほどドキドキしている。
いつも以上に丁寧に髪と身体を清め、ふわふわのバスタオルで水気を取る。
こうなるかもしれないと予想していたため、一応下着は可愛らしい新品のものを持ってきた。
だけど、それすら準備万端みたいで恥ずかしい。