婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
【悪魔のおにぎりが食べたい】
休日出勤している怜士からで、メッセージの下にはふざけた顔のパンダがおねだりのポーズをしている。
【いいよ。差し入れしてあげる。何時にどこ?】
【ありがとう。陽菜が出られるときでいい。本社前に着いたら連絡して】
相変わらず私たち夫婦の間では『悪魔のおにぎり』が定番で、夜遅く帰ってくる怜士のために夜食を用意するときなどは、簡単レシピなのでこれに頼ることも多い。
【おにぎりももちろんだけど、陽菜も食べたい】
ぽこん、と追加できたメッセージを見て、周囲に誰もいないとわかっているのに、恥ずかしさで顔を覆い隠した。
互いに誤解してすれ違っていた期間が長かったせいか、怜士は告白以降、きちんと気持ちを言葉にしてくれる。
もちろん嬉しいのだけど、愛情表現は日に日に直接的になり、最近では私を照れさせるために言っているのではと思うほど甘い言葉を吐く。
毎回まんまと赤面してしまう私を見て満足そうに口角を上げるので、間違いなくからかわれている。
だからって、その言葉が嘘だとは感じないのは、行動でも愛情を示してくれているからなのだろうけど。
私はぱたぱたと手で顔を扇ぎながら手早く出掛ける準備をして、リクエストのおにぎりと、他に簡単につまめるおかずを三品ほどお弁当箱に詰めると、怜士の待つ会社へ向かった。