婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「おかえり。すぐご飯食べる?」
「あぁ。陽菜も働いてるのに、最近家事任せっきりで悪い」
「大丈夫。遅番の日はハウスキーパーさんに頼らせてもらってるから。それより、最近疲れてそうだけど、大丈夫?」
新事業部は怜士の主導で動いていると聞いている。会社では弱音も吐けないのではと心配だった。
ダイニングテーブルに夕食を並べながら水を向けると、幼児教育の方向性で壁にぶつかっているのだと話してくれた。
「受験対策系の勉強に特化した教室は世間でも話題になってるし、集客も利益も見込める。そっちを推す声が大きいのも頷けるんだ」
求められているものとやりたいことは別だと言う怜士は、苦渋と迷いの滲んだ表情で言う。
確かに今の時代、より質のいい教育を受けさせようと小さい頃から習い事をしたり、学区にある公立の小学校ではなく私立の小学校を受験する子も増えている。
「実際、池田のマーケティング力は凄いんだ。そこは信頼してるから間違いはないんだろうけど」
「池田?」
「この前エントランスで会ったろ? 俺の同期で東大出身。デジタルマーケティング部での優秀さを買って引っ張ってきたんだ」
先日、麻生の本社で会った猫目の女性が思い浮かぶ。
『怜士くん』と呼ぶ声や、こちらを睨むような視線まで思い出してしまい、慌てて思考から追い払うように頭を振った。