婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「数値化していかに受験対策クラスが求められているのか見せられると、将来経営を任せられる立場としては利益や需要の大きさは大事だし、理想ばっかり追い求めるわけにはいかない」
珍しく弱気な発言に驚く。
怜士なら、なにがなんでも自分のやりたいことを貫き通すのだと思っていた。
だけど考えてみれば、麻生グループという巨大な企業の後継者として指名され、この半年間どこを歩いても注目されながら仕事をしてきたはずだ。
二十六歳という若さで背負うにはあまりに大きな期待と責任に、プレッシャーを感じないわけがない。
私は怜士の優しさに甘えっぱなしだったのに、彼の苦悩を見落としていたのかもしれないと思うと、不甲斐なさに臍を噛む思いだった。
「怜士」
食事を終えてソファに座る怜士を、そっと抱きしめる。少しでも癒やしてあげたいし、弱音や本音を言える空間を作ってあげたい。
器用な彼は、自分が大変な時もきっと平気な顔が出来てしまう。それを見抜ける妻でありたかった。
「陽菜?」
私から触れることはあまりないせいか少し驚いた様子だったけど、すぐに背中に腕が回され、抱きしめ返してくれた。