婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

「池田だ。悪い、陽菜。出てもいいか」
「どうぞ」

それは平日だけに留まらず、休日の貴重な夫婦の時間にもかかってくるのだから堪らない。

彼も疚しいところはないからか、私の前でも断りを入れて電話に出る。

そのままリビングで話すこともあれば、パソコンを見るために自室に行ってしまうこともあるけれど、楽しそうに話しているのを目の前で見せつけられるのは、あまり愉快な気分じゃない。

漏れ聞こえてくる会話から、ちゃんと仕事の話をしているのはわかってる。

だけど、頻度が多すぎると不満を抱いてしまうのは、私の心が狭いせいかのか。それとも、以前会った時に発動した女の勘のせい?

池田さんは、間違いなく怜士のことを異性として好意を抱いているのだと思う。

そうじゃなきゃ、私に対してあんな意味深なことを呟いたり、尖すぎる視線で睨んできたりはしない。

一度は飲み込めたはずのもやもやとした黒い感情が体調にも表れ、体重が減るほどに食欲も失せてしまっている。

早番で仕事を終えて更衣室で着替えていると、大きなお腹の千花が心配そうに私を見た。

「陽菜、具合悪い?」
「うん、実はちょっとだるい。食欲もないし、少し気分悪くて」

いつもなら心配を掛けたくなくて平気だと言えるのに、そんな余裕すらなかった。

< 188 / 262 >

この作品をシェア

pagetop