婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「陽菜」
子供の頃からずっとそう呼ばれてきたというのに、どこか切羽詰まったような声音で名前を紡がれると、むずむずとした言いようのない感覚が身体を走る。
なぜだかとにかく落ち着かなくて、早く話を終えて部屋にこもってしまいたい衝動に駆られた。
「陽菜は俺と結婚することを承諾したよな」
「……一応」
「でもこの結婚を家の“犠牲”になるって思ってる」
「うん」
「だから、その前に恋愛をしたいなんて言い出した」
「……なにが言いたいの?」
この三週間前のハイライトを確認するように改めて言葉にされ、一体なにがしたいのかわからない。
訝しみながら話を先に進めるように顔を上げて視線を返すと、怜士は意を決したように口を開いた。
「“犠牲”なんて思わないくらい大事にする。恋愛をしたいなら、俺とすればいい」
「……は?」
たっぷり二十秒はフリーズしてしまったと思う。
声にならない疑問が、弱々しい吐息とともに漏れ出るのみ。
怜士がなにを言い出したのか、まったく意味がわからなかった。