婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~

「仕事にまで口出ししてくるものですか? 政略結婚の相手って」

突然後方から話しかけられ、その内容に思わず眉を顰めた。

振り返ると、怜士と同じ黒いスタッフTシャツを着た池田さんが、敵対心を隠そうともしないで私を睨んでいた。

「……こんにちは」

小さく会釈をするものの、彼女は私の挨拶をまるっきり無視して「困るんですよね、部外者に仕事へ口を出されると」と不機嫌そうに言う。

「怜士くんも困ってるんじゃないですか」

困るとはどういう意味だろう。

そもそも彼女は怜士の同期だと言っていたけど、今の彼の立場なら上司にあたるのでは?

馴れ馴れしい呼び方に不信感が募る。

「……怜士くんって」
「あ、仕事中は呼ぶなって言われたんでした。すみません」

謝罪の言葉とは裏腹に、勝ち誇ったような意味深な笑顔。

学生の頃、嫌というほど見た表情は、私の不安定な心をグラグラと揺さぶる。

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