婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「今手掛けているのは、怜士くんが入社当時からいつかやりたいって言ってたプロジェクトなんです。まさかこの会社の御曹司だなんて思わなかったけど、私は彼のサポートがしたくて、必死に仕事を覚えてやっとここまできたんです。お願いですから邪魔しないで下さい」
「そんな、邪魔なんて……」
「このワークショップだって、本来なら必要ない回り道だったんです。もう既にデータは揃ってるのに、あなたの不用意なひと言で振り回されて迷惑です」
池田さんは自分が言いたいことを言い終えると、くるりと踵を返して自分の仕事へ戻っていった。
込み上げてくる不快感と吐き気によろめきそうになるのを、足を踏ん張って耐える。
彼女は怜士のサポートがしたくて今まで仕事を頑張ってきたと言っていた。
その考え方は私とまったく一緒。
だけど実際に役に立っているのは、こうしてうじうじと暗い感情を持て余している私じゃなく、怜士の隣に立ち、一緒にプロジェクトを動かしている彼女なのかもしれない。
池田さんは、このワークショップを回り道だと言っていた。
受験対策の教室に納得しきれていない様子の怜士を見た私が口を出したのをきっかけに、彼がワークショップを開催しようと思いついたのを知っている口ぶりだった。
私は怜士の役に立ちたくて保育士としての意見を言ったつもりだったけど、もしかして迷惑だった……?
そんなはずはないと思う反面、忙しそうに指示を出す怜士の隣に寄り添うように立つ池田さんの姿に、言いようのない敗北感を覚えた。