婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
私、一体何しに来たんだろう……。
ここにいてもマイナス思考になるばかりで、そんな精神状態のせいか、つわりも辛くなってきた。
――――帰ろう。
私が一歩踏み出したところに、ドンッと男の子とぶつかった。
「わぁっ!」
「っと、ごめんね。大丈夫?」
「うん。ぼくも、ごめんなさい」
三歳くらいだろうか。男の子に視線を合わせるようにかがんで、ぶつかったことにきちんと謝れたことを褒めた。
「ちゃんとごめんなさいできて偉いね。どこに行くの? ママは?」
周囲に保護者の方がいなさそうだったので聞いてみると、男の子はイベントスペースの左奥を指さした。
どうやら職員と話し込んでいるらしい。
「そっか。それはもう終わっちゃったのかな?」
彼の右手には、配布されたひらがなの練習用のプリントがある。自分の名前を書けるように、方眼マスが印刷されていた。
それに目を向けると、男の子はしょんぼりした様子で俯いた。