婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
「ぼく、これやりたくない。あんまりたのしくないし……」
「それなら、ママがお話終わるまで、私とこのテーブルで遊んで待っていようか」
「うん」
「お名前は?」
「うおぬまはやと」
「はやと君、素敵なお名前だね。私のことは、ひな先生って呼んでね」
いつもの癖で“先生”とつけてしまったけど、まぁいっか。
配られたプリントが楽しくないと落ち込んでいる子を放置することができず、私は右側の空いていたテーブルに彼を誘った。
「はやと君はなにして遊ぶのが好きなの?」
「しんかんせん!」
「新幹線か、かっこいいよね。見て見て、電車がたくさん載ってる図鑑がある」
「ほんとだー!」
私がテーブルにあった乗り物図鑑を開くと、彼は身を乗り出して興味を示している。
「あ! はやぶさがある。こまちもー!」
「本当だ。はやぶさってここに書いてあるね」
「かいてある?」
「この緑色の文字。これではやぶさって読むんだよ。はやと君と同じ“はや”がついてるね」
「いっしょー」
嬉しそうに喜ぶはやと君の様子を見て、私は置いてあった画用紙にクレヨンで“はやと”と“はやぶさ”の文字を並べて書いた。