婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
少し前まで『あんまりたのしくないし……』としょんぼりしていたのが嘘のよう。
「はやぶさでしょ、こっちはひかり。あとぼくとせんせいのなまえー。のぞみちゃんのはまだとちゅう」
「え? これ全部隼人が書いたの?」
驚いた様子でお母さんが私を見るので、今までのやり取りを簡単に説明した。
その間に、隼人君はのぞみちゃんと一緒に図鑑を見ながら、別のひらがなを書き始めている。
「そうですか。私、なんか焦ってしまってて。周りの子がお稽古事とか教室に通ってるって聞いて、ひらがなくらいは幼稚園に通う前には読めるようにって」
周囲と比べてしまい子供の成長速度を見誤ってしまうことは、子育てをしているお母さんにとってよくあること。保育園で働いていても、かなり耳にする話だ。
「絵本を読んでも、なかなか興味を持ってくれなくて。押し付けすぎていたのかもしれません。こんな短時間で、楽しそうにたくさんのひらがなを書いてくれるなんて……」
反省しつつも、隼人くんの成長ぶりを喜んでいるお母さんを見ると、私まで嬉しくなる。
「ありがとうございます。先生のご指導のおかげです」
「あっ、いいえ! ごめんなさい、私実はここの職員ではなくて……」
慌てて弁解しようとするも、いつの間にかふたりが座っていたテーブルを何人もの子供が取り囲み、隼人くんが「ひなせんせい、はやくつぎー!」と手招きをしている。