婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~
彼女は『新しい名字に慣れないから怜士くんでいいかな』と言ってきたが、当然ながら馴れ馴れしい呼び方は拒否した。
『仕事中はやめてくれ。同期だけど一応上司だから』
池田とは仕事以外で会わないからそう言ったのだが、彼女は納得したのか、それ以降は名字で呼ぶようになった。
「どういうこと? 今さらワークショップだなんて」
彼女は自身が小学校受験の経験者で、勉強に特化した私立幼稚園や大学の附属小学校などへの受験対策の教室がニーズが高いと、分析したデータをもとにずっと授業形式の教室を推し続けている。
「会議で言ったとおりだ。受験対策の教室はニーズはあるが飽和している。うちは既存の教室に追随するんじゃなく、独自のニーズを生み出して新たな幼児教育の形を作り出す。保育士である妻と話していて、目指すべき道が改めて明確に見えたんだ」
自分のデータが企画に活かされないのが不満なのか、彼女は眉を顰めてこちらを見つめてくる。
俺はそれ以上話すこともなく立ち去ろうとすると、まったく別の話題を持ち出された。
「奥さん、霧崎商事の社長令嬢なんだって?」
「……そうだけど」
急に一体なんの話だ。